昔から気になっていた店があった。
鹿児島市方面から入来峠を下ったところにある
「ドライブイン大山亭」

ドライブインというネーミングにも歴史を感じるが、
その佇まいもオレンジ色の瓦葺きがまぶしい、
周りの雰囲気に溶け込まない
一種独特の雰囲気を醸し出している店である。
この店、おそらく15年以上前から(たぶんもっとずっと前だろう)
変わることなく入来街道沿いにひっそりとたたずみ、
今もなおその営業を行っている
希有な店である。
単なるドライブインなら小生の気を引くことはないのだが、
「純手打ちそばドライブイン大山亭」
の大看板が、
のどに刺さった骨のごとく
私の心のどこかにシコリを作っていた。
(ホントか?)

前々から気にはなっていたのだが、
一人でそののれんをくぐる勇気がないために
訪問を先延ばしにしていた店であった。

本日、ついにそのナゾのベールの一端を垣間見る
僥倖に恵まれた。
(同僚2人が「行ってみましょうか?」と誘いに乗った、とも言う)

店にそぐわない電光掲示板の指し示す
「→P→P→P→P→P→P→P→P→P→」
のディスプレイに誘導され、駐車場に車を停める。
12時チョイ過ぎに着いたが、
他に客のいる気配はない。
勇気を振り絞り、のれんならぬガラスのドアを開ける。

し?????????????ん





ガラガラガラガラガラガラガラガラ……

店の奥からなにやら米をとぐような音が聞こえる。

………

「すいませ?ん…」







「ぁ、いらっしゃ?い」

奥から女将(?)、いや、オバチャンが前掛けで手を拭き吹き登場。
何か、この時点である程度結末は予測できたようなヨカン。

メニューを参照。
平均600円の蕎麦類が並ぶ。
鹿児島の蕎麦屋らしく、かけそば中心。
鹿児島の蕎麦はプチプチと細かく千切れてしまうため、
ザルには向かないのだ。
(それでも夏季限定メニューとして掲載はされていた)

天ぷらそば600円也+ごはん100円也をオーダ。
同僚2人も、メニューを変えることによる
提供時間のズレを恐れて、同じものをオーダする。
(あまりオバチャンに負荷をかけてはイケない)

しばしの後、天ぷらそば登場。
小ぶりの海老フリッター
(天ぷらと呼ぶには語弊があるかも…)
が二匹乗った蕎麦登場。

ダシは至って薄く、透明感がある。
しかし、見た目とは裏腹に干しシイタケ、昆布などの
しっかりとした味がする。
決して薄くない、力強い味。
対して蕎麦は、つなぎの山芋感漂う、
鹿児島の典型的な『田舎そば』であった。

県外の方のイメージするそばは、
パスタのように均一に麺状に切られた
いわゆる『そば切り』であろうが、
鹿児島の田舎そばは
山芋のつなぎを効かせ、幅広(5?10mm)に切られてはいるが
コシが弱いため3?4センチ程度にブチブチ千切れた、
箸ではすくい難いものである。
ゆえに、箸ではつまみにくいためザルには不向きなわけである。
『そば切り』というよりは、『そばのかけら』。

その田舎そばが、色は薄いが味は濃いダシに泳いでいる。

標準的な『鹿児島田舎そば』であった。
この手の蕎麦はダシがキモであるが、
そちらは十分にウマい
さすがは年輪を感じさせる味である。

特筆すべきはないが、それでも何か懐かしい味のする、
『鹿児島のあたりまえの蕎麦』が味わえたランチであった。

ウインク