昼食の
越後蕎麦
腹持ちが良かったため、
(胸焼けとも言う)
ディナー(?)は19時頃になった。
以前蒲田の麺を検索していたところ、
幾度となく引っかかってきた店があった。

「古式カレー インディアン」

なぜに麺の検索で
カレー屋が引っかかるのであろう?
それは、
「支那そばと古式カレー」
なるメニューがあるからである。

古式カレーとはなんぞや?
それは、戦前から同じレシピで受けつがれている
いにしえのカレーである。
なにやら「武田式」らしい。
初代店主の名を受け継ぐそのカレーは、
それはそれは美味なる逸品らしい。
そうWebの幾多の勝手サイトが評じている。

「これは食せねばなるまい!」

麺喰道師範である小生も、
実はウマいカレーにも目がない
それがいっぺんに食せるというのである。
何としても味わう必要がある。

JR蒲田駅西口から、当てずっぽうに
まっすぐ西へと歩を進める。
東急池上線は蒲田駅から緩やかに北上し、
ほぼ北行したところで蓮沼駅を迎える。
その蓮沼駅前に「インディアン」なる店はあるらしい。
池上線は何度か乗ったので、
一駅がたかが知れた距離であることは
わかっていたので、徒歩にてチャレンジである。
案の定500mほどで緩やかに曲がりつつ
道を遮る池上線が見えてきて、
道なりに進むと蓮沼駅が見えてきた。

駅前のこぢんまりとした商店街がある。
目当ての「インディアン」はすぐに見つかった。
なにせ駅前の踏切からまっすぐである。
迷いようがない。
Webの事前情報によると、
TVチャンピオンにも出演したことがあり、
幾多の取材も受けている店のようである。
きっといくばくかの客が並んでいるに違いない…

その予想はアッサリ裏切られた。
店内に客の影はない。
事前知識がなければそのまま気が付かずに
通り過ぎてしまいそうな店の佇まい、
静けさである。
それでも営業中でもあり、ぜひともその味を
我が知覚で認識せんと、
のれんをくぐる。

「いらっしゃい!」
初老と言うよりは中老に近いオッチャンが出迎える。
この方がオーナかと思いきや、実はオーナは
しばし店を空けていたようで、
オーダを取り終わった頃に
ぶらりと戻り、調理を始めた。
オーナは意外に若い雰囲気である。
とは言っても、
店先に孫娘のものと思われる
ピンクの三輪車が置いてあったところを見ると、
それなりの年齢なのであろう。

「支那そばと半カレー」
をオーダする。
1,000円也
「支那そばとカレー」
で1,150円であり、こちらを頼んでも良かったが、
もし満腹になり
残すようなことがあっては、
麺喰道師範として醜態をさらす
ことにもなりかねず、
まずは軽く慣らし程度で抑える。
オトナである。

さて、まずは支那そばが運ばれてきた。
透明な薄いアメ色のコンソメスープに
弱く縮れた麺がさらっと泳ぎ、
具は多少厚切りのチャーシュー一枚、
シナチク少々、
茹でほうれん草少々と、
見た目からして実にアッサリしている。
スープをひとすすり。
う?ん、ホントにアッサリ。
肩すかしを食らったようである。
確かに素性の良いスープなのだが、
インパクト薄し、である。
麺入り塩味コンソメスープを食していると、
オーナーのヒタとした視線を感じた。
どうやら、こちらの食し具合を観察し、
カレーを出すタイミングを計っているようである。
腕組みをし、こちらをじっと見つめるオーナーの視線を感じながらも、
こちらもそ知らぬ顔をして食を進める。
シロートと思ってナメてもらっては困る。
こちらも麺喰道師範である。
負けてはいられない。
支那そばを4割方食したところで、
おもむろにオーナが皿を手に取る。
メシをよそり、先ほどより鍋で加熱していた
カレーを盛る

「カレーお待たせしました」

間を図っていた素振りなどおくびにも出さず
カレーを配膳する。

真っ黒である。
正確にはどこまでも黒い焦げ茶色
といった趣で、その辺のカレーとは
一線を画する。
固形物と言えば、3センチ四方ほどの
肉片のみである。
一口カレーを食す。
最初は焦げたウスターソースのような
ビミョーな
味が口腔内に広がったが、
その後すぐにスパイシーな香りが広がった。
スパイスを焦げる直前まで追い込んだような
そんな味わいである。
好みのカレーである。
鼻腔をくすぐるスパイスの風味、滋味深し
二口三口カレーを楽しんだ後、
支那そばに戻る。
スープを一口。

「おぉびっくりびっくりはてな

先ほどの支那そばのスープとは思えないほど
深みが増している。
はっきり言って
「味薄し、インパクト弱し」
と感じていたスープが、
俄然輝きを増し、素材の味を主張している。
また、口中に残ったカレーの味も、
渾然一体となったものの中から
いわゆるカレーのルーや野菜の味などが
さっと洗い流され、
味蕾に結合したスパイスの味のみが残り
個性を放っている。
このスパイスが支那そばのスープの味をも引き立て、
相乗効果となって味覚を襲う。

「これだったか!!」

ここに来て、オーナの術中にハマった思いがした。
味が薄く、ある程度れてきた支那そばの味を、
カレーによって奮い立たせ、互いの良い点を
引き出しあい、高めあっているのである。

その後もカレーを食し、味わった後に
支那そばをすするとまたしても
リフレッシュした味わいをあらためて味わえるのである。

うむ。意気や良し

さすが、多くの方々が誉めるだけのことはある。

古式カレーだけでも十分味わうに値するが、
支那そばのスープと真正面から向き合わせることにより、
より一層のおいしさを引き出すことに成功している。

侮り難し、歴史の味。

完敗であった。
再見。

笑い