鹿児島のラーメンを語るに当たっては

やはりこの店は避けて通ることはできまい。
(。-`ω-)



 ラーメン専門店 のぼる屋 

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『鹿児島ラーメンの祖』

と言われていた店である。

だが、皆さんご存じのように
現在の店は
その源流とはまったくといっていいほど関係がない
のである。


もともと『のぼる屋』は堀江町にあった。

当時の拙blogの記事が残っている。

聖域。のぼる屋(2007/09/22)


もう10年近く前の記事ではないか。(;´Д`)

その間blogの引っ越し等もあったため
多くの記事で画像が失われたり
各種リンクが切れてしまっていたりしているのであるが
この記事では奇跡的に写真が数枚残っている。

当時の解像度の低いガラケーの撮影ゆえ
画像も小さいのであるが
雰囲気は十分に察していただけるのではないかと思う。

まさか『のぼる屋』
後継者が途絶えて閉店してしまうなどとは
ゆめゆめ思っていなかったため
大した回数行かないまま
店は廃業してしまった。

聞くところによると、後継者として
3代目に就任した男性が体調を崩し
回復せぬまま他界してしまい
さらなる後継者がいなかったために
閉店を余儀なくされたものだという。

当時の店員はほとんど高齢のご婦人方であったため
それもやむなしといったところであった。

それがなぜ再興したのかというと
詳しくは以下の
西日本新聞
の記事に詳しい。


[西日本新聞 2016年10月18日 17時37分 ]

のぼる屋復活 常連結集 鹿児島の老舗ラーメン店 「記憶の味」再現、共同経営

鹿児島市のラーメンファンに惜しまれつつ、
2年前に60年を超える歴史に幕を下ろした
同市のラーメン店「のぼる屋」ののれんが復活した。
鹿児島ラーメンの代表格とされる味を
常連客たちが再現。
亡くなった店主の遺族の了承を得て共同経営を始めた。
「帰ってきた老舗の味を県内外に広めたい」と意気込んでいる。

のぼる屋は終戦間もない1947年、
鹿児島市の繁華街・天文館近くに開店。
豚骨や魚介類を煮込んだスープと自家製の中太麺が特徴で、
あっさり味と食べ応えが人気を呼んでいた。
最盛期には昼食時に列ができ、
1日200人以上の客であふれていたという。

その後も市民に親しまれ、
鹿児島の名所の一つになっていたが、
店主が亡くなり、
後継者もいなかったために閉店した。

そんな中で「のぼるラーメン」を愛してやまない
ファン有志が再開を模索。
市内在住の牧野ゆかりさんが昨年9月、
店主の親族を訪ねて直談判したところ
「あんたがやらんね」
と勧められ、自分たちの手で復活させることにした。

ただ、レシピは店主しか知らず、
メモも残されていなかった。
牧野さんらは店の関係者が記憶する
食材の仕入れ先から材料を特定、
試行錯誤を繰り返しながらの試食会は35回を数え、
招いた常連客延べ500人の「舌」を頼りにした。

今年6月にようやく完成。
中心になって再現に取り組んだ
中華料理店シェフの石津誠さん(34)が
新生「のぼる屋」の料理長に移籍し、
かつての店に近い、
鹿児島市金生町での9月4日のオープンにこぎ着けた。

共同経営者の一人で、
幼いころからのファンという
鹿児島県指宿市の下竹原啓高さん(63)は
「皆が味を記憶しているうちじゃないと再現できなかった」
と笑顔を見せた。
代表を務める牧野さんは
「これからも多くの人に愛されるラーメン作りに努めたい。ぜひ食べにきて」
と呼び掛ける。

メニューはラーメン(800円)のみで
大盛り(千円)も。
営業は午前11時~午後8時。
不定休。
のぼる屋=099(226)0141。

この記事は2016年09月06日付で、内容は当時のものです。


オリジナル記事へのリンクはこちら


つまりは、

『のぼる屋』

という店舗名称を使用することを許可されただけ
オリジナルの『のぼる屋』とは
いったん隔絶された
まったくのオリジナルラーメン
なのである。

このようなバックボーンのストーリーは素晴らしいが、
さて実際にこれを商売として見たときには
どうであろうか。

かつての『のぼる屋』
観光ガイドブックにも必ず掲載されているほど

鹿児島の観光名所

であったわけだ。


それを
オリジナルのレシピに忠実に
というわけでもなく
同じ場所
でもなく
ましてや店主の遺族から了承を得ているとはいえ
まったくの赤の他人が

同じ名前で別のラーメンを出している

ということである。


このようなフクザツな事情の場合は、
どのような形をとったにせよ
必ず外野はいろいろと批判的なことを言うものである。
( ・`ー・´)

オマエモ外野ナー


やれ味が違うの
昔の方が良かったの
ナニ勝手に他人のフンドシで相撲取ってんの


だの
言うだけならば誰でもできる。


だがしかし、今回は一大プロジェクトとして
実際に『のぼる屋』再構築
運営に乗せたのである。

これはまずは称賛されて然るべきであろう。

大資本(指宿白水館)の後ろ盾があったとは言え
ナミナミならぬ苦労があったと思われる。


しかし。

このような

プロジェクト

としての店の復興に当たっては
大事なことはそのベースとなる

コンセプト

なのではないかと思っている。


ただのそんじょそこらのラーメン屋の再興とは
ちょっとワケが違うのである。

すでに

鹿児島の観光地

と化していた店の再興なのだ。
単に

昔の味をそれっぽく再現しました
おいしくできました


ではいけないのではないかと思うのである。

名店の名前を継ぐのであれば

歴史の継承・伝承

がなければならないのではないか。






・・・・などと、食す前から
アタマの中では

肯定すべきか否定すべきか
持ち上げるべきか落とすべきか
称賛すべきか黙否すべきか

などなど
さまざまな考えがアタマの中を駆け巡り
収拾がつかない状態。


所詮血塗られた道か。

やはり実食してみるしかあるまい。
(またか)


それでは実食とまいりましょう。




ということでようやくやってきましたよ。(=゚ω゚)ノ

新しい店舗は
鹿児島が全国に誇る

ふるさとのデパート山形屋

の真ん前、バス停留所のあるところ。

隣は、鹿児島の最大手某地銀の
非難囂々絶賛立て替え中
の本社ビル建設地。

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本日は諸事情により
予定が狂ってしまったので
昼休み時間から客先に入るべく
早めの訪問。

なんと11時過ぎww

これまでも幾度となくこの店への潜入を図ったが
お昼時間帯にはいまだに行列ができ
なかなか訪問が果たせなかった。

さすがにこの時間は空いていたが、
他の客は小生をのぞいてほとんどが後期高齢者であった。
(小生はまだ青二才のプレ高齢者ww)


入店すると入口に券売機が。

券売機の横には専任のスタッフが常駐しており
いちいち一つ一つ
説明してくれる。

「いらっしゃいませ。
おひとり様ですか?
ラーメンは普通の800円と
大盛り1000円
そのほかご飯など
ウンヌンカンヌン・・・・」

テンプレ通りの案内なのであろうが、
少々鬱陶しく感じる。

だがしかし、この店の客層のメインストリームを見れば
その理由も理解できる。


券売機などに馴染みのない後期高齢者

どこにお金を入れればいいのか
どのボタンを押せばいいのか

そもそもナニをどうすればいいのかわからず


うろたえ狼狽しキョロキョロと見回し
後ろの行列などまったく意に介さず
オタオタしながら店員を呼び止め
最後には
「こいじゃいっちゃんワカランが!こぁ!!
とダレにともなく切れるの図

が容易に想像できる。

そのため、全ての客にこのように
いちいちこと細かに説明するのであろう。

「んなこたぁ、わかってるよ!ヽ(`Д´)ノ」

と思っても客ごとに差別することもできないからな。

ということで普通盛り800円のチケットを購入。

カウンターの端へ。

のぼる屋 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA



運ばれてくるのは水とオシボリと漬け物。

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イニシエの『のぼる屋』では
オシボリは一枚もののフツーのタオル
であったが、
こちらは業者のレンタルオシボリ。

このあたりも昔のまま踏襲すればよかったのであろうが
さすがにそれはムリだったか。

厨房には大きな寸胴が3つ。

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単一スープを煮出すので
多くの寸胴は不要なのであろうか。
客数に対してはやや少なめに感じたので
スープ切れ早じまいがあるのかもしれない。

店内は
4人掛けテーブルが5卓ほど
カウンターが12席ほどだろうか?
小生の座った入口いちばん手前の
左端の席番が
『7』
であり右隣が『8』だったが
どのような並びになっているのだろう?
L字カウンターの長手側は
明らかに6席よりも多いようであるが?


提供時間まではやや長め。

小生の前に二人の後期高齢者に一杯ずつ提供されていたが、
そのインターバルも長かった。
一杯一杯の制作に時間がかかる模様。

お昼時の混んだ状態では
さらに提供時間がかかるのではないかと思われる。


そんなことを考えるうちにいよいよ登場。

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ファーストインプレッション
なかなか再現性が高い
と思わせる出で立ち。

半濁のスープに
まず目に入るのは豆モヤシ

これが『のぼる屋』のラーメンの最大の特徴。

そして
いかにもスープの材料として煮出しました
といった風情の色味の悪い

煮豚。

チャーシューではない。
煮豚である。

そして小口切りのネギ。

以上。


現在の価格設定が普通盛り800円となっているが
イニシエののぼる屋では
1000円のみであった。

ただ、以前と比べずいぶんと小振りに感じるので、
大盛り1000円のものが以前のものの再現のサイズ
なのではなかろうか。

そう考えると、ミニサイズができただけで

価格は以前から据え置き

であると考えられる。


ふぅむ・・・・

これで1000円ねぇ。


まぁよい。

まずは食してから。


スープを一口。

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まずは感じるのが魚介の香り

煮干しとカツオ節であろうか。

口に含むと、若干酸味を感じつつも
しっかりとトンコツの味がする。

この酸味は煮干しに由来するものではないか
と思われる。

麺は、見ての通り無かん水の

ほぼ細めのうどん。

むっちりチュるっとしたすすり心地であるが
以前はもっとゴリッとした感触ではなかったかと思う。

今回はけっこう柔目であった。


煮豚は一回ダシが出た後に
しばらく放置して煮豚にウマ味が戻った状態のものか。
パサパサともせず
それほどウマいものではないが
これがいちばん再現性が高いのではないか
と思った次第である。


方向性はイニシエのイメージをトレースしている
と感じた。

だがしかし、昔のレシピを再現したわけではなく
似た材料を使って
多くの人間の感覚のみによって
再現を試みた一品であるため
どうしても同じものではない。

もっとも、たとえ全く同じレシピで
同じ製法で作られたとしても
客のイメージでは別物として捉えられ
どのようにしたとしても
一部の客からの批判
は免れないところではあろう。

味というのは
その日の体調や気分
環境や気候
本人のイメージ

などといったものに
大きく左右されるモノである。

同じ店でのブレもあるのに
全く同じものの再現というのは不可能なのである。


しかし、それを差し引いても
小生の感覚からは

別モノ

であるとしか感じられなかった。


一番大きいのは、
ある種のミネラルの使用不使用
なのではないかと思う。


再現するに当たって
以前の店でも無化調であったとされているが

いやいや、ゼッタイ昔は使ってたでしょ。


小生の記憶の中では
食したあとにいつまでも舌に残る

シビれる感覚

があったと思っている。

それが、今回の新店では
完全に無化調でスープを出しているというのである。

確かに再現性はあると思う。

無化調でこれだけの強いウマ味を出す
のは大変なのではないかと思う。

しかし、それが価格に跳ね返っているのであれば
ちょっとそこは違うのではないだろうか。


イニシエの『のぼる屋』のラーメンは
確かに価格は1000円であった。

しかし、その中には
鹿児島のラーメン界の祖であるという
観光地としての無形の雰囲気
当時のままの建物
当時から引き継がれている
バーチャンたち店員の有形の雰囲気
など
ひっくるめて小生は

拝観料

と呼んでいたが
そのような
有形無形のナニかの付加価値
に対する料金も含んでいたと思う。

バーチャンたちが客に話しかけ
県外からの客とわかると
絵はがきをくれたり
みかんをオマケしたり

(市内ですというとシカトされるww)
などの観光客ずれしたところもまた
趣の一つであったのだ。


それら観光地としての要素
スッポリと抜け落ちた今の店
であるが
今後はどのように展開していくのであろうか。

あくまでガイドブックに載る
イニシエの『のぼる屋』再現
として売っていくのか。

『のぼる屋』の昔の味を知る
後期高齢者を相手に
懐かしさだけで集客していくのか。

それともこの再現したとされる味をベースに
新しいメニューを増やして
発展的に営業していく

のか。


そのあたりのコンセプトがよく見えないのである。


現段階では

『のぼる屋』の再現

として売っていくしかないのだろうが
おそらく観光地的要素が抜け落ちた今の店には

県外の客に訴えるアピールポイントがない

のではないだろうか。


ガイドブックに載った情報を見て
県外客は言うだろう。

「で、別モノなんでしょ?」


それに対してどう答えていくのかが
今後の課題ではなかろうか。


ということで、小生の味の感想としては


ソレナリにコストをかけられた
割とよくできた新しいラーメン。


だがしかし
昔の『のぼる屋』のラーメンではない
よく似せた味。

最近のラーメン的手法で再構築されたもの。


ごちそうさまでした。

DSC_0380



これをどのような方向で運営していくのか。

今後の舵取りに注目したい。


まずはひとまず、
ご自分の感想を持たれるためにも
お試しあれ。